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福岡高等裁判所那覇支部 昭和58年(行コ)1号 判決 1984年6月26日

那覇市壷屋一丁目二八番一四号

控訴人

仲村元昭

右訴訟代理人弁護士

西平守儀

右同

武原元省

那覇市旭町九番地

被控訴人

那覇税務暑長

宮城松栄

右指定代理人

榎本恒男

右同

大城正春

右同

安里国基

右同

宮平進

右同

金城俊夫

右同

仲大安勇

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人らは、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五〇年五月二八日付で控訴人の一九七二年度分所得税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定処分(但し、異議申立に対する決定により一部取り消された後のもの)のうち、総所得金額アメリカ合衆国通貨(以下同じ)三万一九二七ドル四七セント(九七三万七八七八円)を基礎として算出される税額を超える部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決添付の別表中、裁決欄の「棄却」の次に「昭56・3・13送達」)を付加する。

(控訴人の主張)

1  控訴人は、マサ子から一九七一年(昭和四六年)一二月二四日に一一万ドル、一九七二年(昭和四七年)五月二日に四万ドル合計一五万ドルを受領しているところ、控訴人は本件土地の共有者の一員であるので、右金員のうち八万五七〇八ドル三九セントを右マサ子他三名の納税資金に充て、残金六万四二九二ドル六一セントを控訴人に対する分配金として受領したが、これは控訴人の右共有持分の譲渡代金の受領にほかならず、譲渡所得にあたる。したがって、被控訴人が主張するような役務提供の対価として得た収入ではなく、雑所得に該当するということはできない。

仮に、控訴人が共有者の一員でなかったとすれば、右金員は控訴人に対する贈与とみるべきであるから一時所得として課税されるべきである。

2  控訴人は前記四万ドルを一九七二年(昭和四七年)五月二日に受領しているのであるから、これを一九七二年度(一九七一年四月一日から一九七二年三月三一日まで)分の所得に計上した本件処分は、所得の帰属年度の認定を誤った不当な課税処分といわざるを得ない。

(被控訴人の反論)

1 控訴人マサ子から受領した金員のうち、マサ子他三名のその年度における納税資金を控除した残金は、控訴人がマサ子及びその夫である金城盛吉の依頼により本件土地を取得及び譲渡する際に、立会人として関与し、或いは本件土地を同人から委託を受けて管理するなどその役務提供の対価として給付されたものである。したがって、これは当時の琉球政府所得税法八条一項一〇号に規定する「雑所得」に該当することが明らかである。

2 しかして、本件土地の売買に関する控訴人の受任事務は、昭和四七年一月ころ大球産業との売買契約が成立したことによりその履行が完了したから、控訴人は、右履行の完了により受任の対価の請求権を取得した。したがって、控訴人の収入すべき権利(報酬債権)はこの時に確定したことになる。してみると、控訴人が同年五月二日に受領した四万ドルは、既に右の時期に確定した権利につきその給付が履行されたものにすぎず、これが一九七二年度の収入金額に含まれることは明らかである。

三 証拠の関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきと判断するものであって、その認定判断は次のとおり付加、補正するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一〇枚目裏一行目の「目的で、」の次に「安田住宅を買主とし、」を付加し、同一一枚目裏八行目の「原告にも相談した」を「同年七、八月ころ控訴人に対し右売却につき立会人として契約締結に関与するなどの事務処理を委託し、右土地に対する控訴人の既往の役務提供の分と合わせ、それに対する報酬の支払約束もした」に改め、同一二枚目裏三行目の「原告が」の次に「昭和四六年一二月二四日に一一万ドル、昭和四七年五月二日に四万ドル合計」を付加する。

2  同一四枚目表五行目の「知らない旨述べている」を「その認識がない」に、同九行目の「をもって」から同一一行目までを「及び当審証人新田宗達の証言は、前記(二)の認定を覆し、控訴人の前記主張を裏付けるに足りるほどの実質的価値があるものとは認め難い。」に各改め、同裏二行目の「及び」の次に「原・当審における」を、同三行目の「土地は」の次に「当初の買主である安田住宅の地位を承継した」を各付加する。

3  同一六枚目表一一行目の「そうすると、」の次に「これに反し、右六万四二九一ドル六一セントが控訴人に対する贈与であるとして一時所得として課税されるべきである旨の控訴人の主張は失当というほかはなく(次郎、秀正及び安田が、本件土地の売買代金中から受領した金額をいずれもマサ子からの贈与にかかる一時所得として所得税申告したことは前記認定のとおりであるが、このような事実があるからといって直ちに右判断の妨げとなるものではない。)、」を付加し、同末行目の「該当し、」を「あたるものといわなければならない。」に改める。

4  同一六行目表末行目の「これに」の前に行を改めたうえ、次のとおり挿入する。

「4 ところで、控訴人は、昭和四七年五月二日に受領した前記四万ドルについてこれを原因とする所得の帰属年度の認定を誤った違法がある旨主張するので検討するに、琉球政府所得税法一〇条一項は、雑所得の基礎となる総収入金額は、その収入すべき金額の合計金額によるものと定めているが、この収入すべき金額とは、収入すべき権利の確定した金額であって、前記認定によれば、控訴人が本件土地の取得、譲渡に際しての役務提供の対価として受領した前記報酬ないし謝礼金は委任契約を原因とするものと認められるところ、かかる委任契約による収入金額が雑所得を構成する場合の権利確定の時期については、その性質上、期間により報酬を支払う旨の特約又は慣習のない限り、受任事務の履行完了の時と解するのが相当である。そして、本件においては、右のような特約又は慣習の存在を認めるに由ないところ、前記認定によれば、控訴人の前記役務の提供は、マサ子と大球産業との間に売買契約が成立した昭和四七年一月ころその履行が完了したものと認められ、したがって控訴人がこれに先立ち昭和四六年七、八月ころマサ子との間で支払に関する合意をした右役務提供の対価にかかる収入すべき権利は、本件係争年度内である右履行完了時点において確定したものというべきである。そうすると、前記四万ドルも右支払合意に基づいて給付されたものと認められる以上、控訴人の本件一九七二年度の収入金額に含まれるものと解して妨げはなく、したがって、控訴人の同年度における雑所得は前記六万四二九一ドル六一セントであり、」

5  同一六枚目裏四行目の「超える」の次に「(前記手附金一五〇〇ドルを差引計算しても異ならない。)」を付加する。

二  よって、右判断と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によってこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 惣脇春雄 裁判官 比嘉輝夫 裁判官 篠原勝美)

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